
ホエイ、ソイ、カゼインが主流のプロテイン原料市場で、国産脱脂粉乳を使う設計は「新しい高精製たんぱく素材」というより、既存の乳資源を別の用途に活かす取り組みとして捉えるべきだ。
脱脂粉乳は、菓子、パン、乳飲料、発酵乳などで使われてきた乳製品である。新しさは、国産乳原料をプロテインや高たんぱく食品の文脈に接続し、酪農需給と商品開発を同時に考えられる点にある。
脱脂粉乳プロテインとは何か

脱脂粉乳は、生乳や牛乳などから乳脂肪分を除き、ほとんどすべての水分を除去して粉末状にした乳製品である[1]。
ここで注意したいのは、脱脂粉乳がWPIのようにホエイたんぱくを高濃度化した素材ではないことだ。文部科学省の食品成分データでは、脱脂粉乳100gあたりのたんぱく質は34.0g、脂質は1.0g、炭水化物は53.3g、灰分は7.9gとされている[2]。たんぱく質だけでなく、炭水化物やミネラルも含む乳固形分素材として見る必要がある。
そのため、WPIやカゼイン単体の粉末と同じ「高精製たんぱく原料」としてではなく、乳由来の風味や固形分を活かす原料として処方設計することが基本になる。
なぜ国産脱脂粉乳が使われるのか

BtoBでの注目点は、栄養価だけではない。国産原料であること、乳らしい風味を付与できること、既存の乳業サプライチェーンと接続しやすいことが評価軸になる。
加えて、脱脂粉乳には酪農需給の文脈がある。Jミルクの資料では、生乳は水分87.4%、乳固形分12.6%で構成され、乳固形分は乳脂肪分3.8%と無脂乳固形分8.8%に分かれると説明されている[3]。同資料は、バターや生クリームを製造すると、構造上、脱脂濃縮乳または脱脂粉乳も製造されることを示している[3]。
農林水産省資料の2026年度見通しでは、脱脂粉乳の生産量は157.5千トン、推定出回り量は131.5千トン、単年度ギャップは26.8千トンとされている[4]。このため、国産脱脂粉乳を使う商品企画は、単なる原料選定ではなく、無脂乳固形分の出口づくりという意味を持つ。
商品開発で見るべき注意点

高たんぱく訴求には配合量の壁がある
脱脂粉乳は、たんぱく質含有率だけで見るとWPIや分離大豆たんぱくより低い。ADPIはWPIについて、乾物換算で少なくとも90%のたんぱく質を含む素材と説明している[5]。また、文部科学省データでは、分離大豆たんぱくのたんぱく質は100gあたり79.1gである[6]。
一方、脱脂粉乳のたんぱく質は100gあたり34.0gである[2]。そのため、脱脂粉乳だけでたんぱく質20gを設計する場合、単純計算では20÷0.34=約58.8g、実務上は約59gの原料が必要になる。
この場合、糖質、粉体量、エネルギー、乳由来の風味も同時に増える。低糖質スポーツプロテインと正面から競うより、ミルク感を活かしたベーカリー、スープ、乳飲料、栄養補助食品などへの配合に向きやすい。
表示・品質管理は粉体原料として扱う
脱脂粉乳は乳由来原料である。食品表示上、乳は特定原材料に含まれ、原材料として含む場合は「乳成分を含む」と表示する考え方が示されている[10]。アレルゲン表示、乳糖への配慮、原料原産地や「国産」表示の根拠確認は、商品化前に整理しておく必要がある。
製造面では、法令上の規格として、脱脂粉乳には乳固形分95.0%以上、水分5.0%以下、細菌数5万/g以下、大腸菌群陰性などが定められている[1]。加えて、脱脂粉乳は乳糖を多く含むため吸湿しやすく、保管中に粘着、固結、ダマが生じる可能性がある[7]。温湿度、包装、開封後管理、ロットトレースは確認項目に入れるべきだ。
また、粉体原料として扱う場合は、粉じんによるアレルゲン交差接触にも注意する。Codex CXC 80-2020は、乾燥原料の粉じんによるアレルゲン交差接触を抑えるため、局所排気、集じん、周辺粉じんの管理、設備カバーなどを例示している[8]。JFS-C規格でも、原材料から最終製品まで、物理的・化学的・生物学的汚染およびアレルゲン交差接触を防ぐ管理が求められている[9]。
まとめ
国産脱脂粉乳プロテインの新しさは、素材そのものではなく、乳資源の使い方を変える点にある。
高精製・高濃度のスポーツプロテイン原料と競うより、国産乳原料、低脂質、ミルク風味、日常食への配合、酪農需給の課題との接続を組み合わせた企画に適している。
事業者は「高たんぱく原料」とだけ捉えず、たんぱく質含有率、糖質、乳アレルゲン、粉体管理、原料証跡、需給背景まで含めて設計することが重要である。 そこまで整理できれば、ホエイやソイとは異なる価値を持つBtoB原料として提案しやすくなる。

参考文献
[1] 厚生労働省「乳及び乳製品の成分規格等に関する命令」
URL:https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=78333000&dataType=0&pageNo=1
確認日:2026年6月10日
[2] 文部科学省「食品成分データベース:乳類/牛乳及び乳製品/粉乳類/脱脂粉乳」
URL:https://fooddb.mext.go.jp/details/details.pl?ITEM_NO=13_13010_7
確認日:2026年6月10日
[3] Jミルク「日本のミルクサプライチェーン 2025」
URL:https://www.j-milk.jp/knowledge/dairy/h4ogb4000000egok-att/JapanSupplyChain2025.pdf
確認日:2026年6月10日
[4] 農林水産省「2026年度の生乳および牛乳乳製品の需給見通しと課題について」
URL:https://www.maff.go.jp/j/chikusan/gyunyu/attach/pdf/antei_kyokyu-116.pdf
確認日:2026年6月10日
[5] ADPI “Whey Protein Isolate”
URL:https://adpi.org/ingredient-resources/whey-protein-isolate/
確認日:2026年6月10日
[6] 文部科学省「食品成分データベース:分離大豆たんぱく/塩分調整タイプ」
URL:https://fooddb.mext.go.jp/details/details.pl?ITEM_NO=4_04090_7
確認日:2026年6月10日
[7] U.S. Dairy Export Council “Dried milk products are susceptible to storage browning...”
URL:https://usdec.files.cms-plus.com/pdfs/foodaid/smpstoragefactsheet.pdf
確認日:2026年6月10日
[8] Codex Alimentarius “Code of Practice on Food Allergen Management for Food Business Operators, CXC 80-2020”
確認日:2026年6月10日
[9] Japan Food Safety Management Association “JFS-C Standard Document Version 3.2”
確認日:2026年6月10日
[10] 消費者庁「別添 アレルゲンを含む食品に関する表示」
確認日:2026年6月10日