
パンやケーキ、焼き菓子などを高たんぱく化する際、パサつく根本的な原因は、たんぱく質原料による過剰な吸水と、焼成時の熱変性に起因する「生地中の水分設計の破綻」にあると考えられる。たんぱく質が小麦粉中のデンプン以上に水分を抱え込み、さらに加熱によって凝固・収縮することで水分を放出するためだ。
小麦粉とたんぱく質の吸水メカニズムの違い

通常のパンや焼き菓子は、小麦粉中のデンプンが加水・加熱によって糊化(こうか)し、小麦たんぱくがグルテンの網目構造を作ることで水分を保持し、しっとりとした柔らかい食感を形成している [1]。一般的な強力粉のたんぱく質量は、100gあたり11.8gである [2]。
一方で、分離大豆たんぱくなどのプロテインパウダーは、100gあたり79.1gがたんぱく質で構成されているような高濃度粉体である [3]。大豆たんぱく等の植物性たんぱく質は、乾燥した粉末の状態で自重の2〜3倍以上の水分を急速に吸収・保持する物理的特性(吸水性・保水性)を持つ [4]。このため、小麦粉の一部をたんぱく質原料に置き換えると、本来デンプンやグルテンの形成に行き渡るべき水分が急速に奪われ、生地全体の結合水が不足することでパサパサとしたもろい組織になりやすい。
焼成時の熱凝固と離水現象

パサつきのもう一つの大きな原因は、オーブンでの焼成工程におけるたんぱく質の「熱変性」である。たんぱく質は加熱によって立体構造が変化し、収縮・凝固する特性を持つ。この熱変性の過程で、組織内に保持されていた水分が分離して外部へ流出(離水)しやすくなり、結果として食感が硬くパサパサになる傾向がある [5]。
押し出された水分がオーブンの熱で蒸発すると、焼き上がった生地は水分を失って乾いた食感となる。また、水分が不均一に分布することで製品全体の水分活性が不安定になる可能性もある。パサつきを抑えようと単純に加水量を増やすと、デンプンの吸水やグルテン形成が不十分なまま生地が緩くなり、加熱時に余分な水分が蒸発しきれずに生焼けの原因になる恐れがある [1]。
パサつきを防ぐ水分設計と保水アプローチ

これらの課題に対し、水分を物理的に逃がさない処方設計の構築が実務上有効とされる。具体的には、植物油脂やバターなどの脂質を適切に配合し、たんぱく質の粒子表面をコーティングして水分の蒸発を防ぐ手法が挙げられる。
加えて、糖アルコール(ソルビトールなど)は砂糖に比べて優れた保水性を持ち、食品の水分を保って硬化を防ぐ機能が期待される [6]。脂質によるコーティングとあわせて、糖アルコールや保水性の高い水溶性食物繊維(難消化性デキストリンなど)を併用し、たんぱく質の過度な結合を阻害する緻密な水分設計を行うことが求められる。
まとめ|適切な水分設計の重要性

パンやケーキ、焼き菓子の高たんぱく化に伴う食感の課題は、たんぱく質特有の極めて高い吸水性と、加熱時の熱変性による水分の離水現象が主な原因である。単なる加水ではなく、各種原料の特性を考慮したうえで、脂質や保水素材を活用し生地内の水分設計を根本から見直すことが、高品質な商品開発の要となる。
参考文献
[1] ベーカリスタ株式会社「パンのパサパサを防ぐ吸水の話」
URL: https://bakerista.jp/archives/mag/absorption
確認日: 2026年6月23日
[2] 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年:穀類/こむぎ/[小麦粉]/強力粉/1等」
URL: https://fooddb.mext.go.jp/details/details.pl?ITEM_NO=1_01020_7
確認日: 2026年6月23日
[3] 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年:豆類/だいず/[大豆たんぱく]/分離大豆たんぱく/塩分調整タイプ」
URL: https://fooddb.mext.go.jp/details/details.pl?ITEM_NO=4_04090_7
確認日: 2026年6月23日
[4] 日本植物蛋白食品協会「植物性たん白の使用方法(協会会員企業各社の例)」
URL: https://www.protein.or.jp/wp-content/themes/protein.or.jp/pdf/usage.pdf
確認日: 2026年6月23日
[5] 宝酒造 業務用調味料「魚、肉の食感~おいしい食感と維持する方法~」
URL: https://chomiryo.takarashuzo.co.jp/knowledge/detail/105/
確認日: 2026年6月23日
[6] 株式会社パールエース「糖アルコールってどんなもの?」
URL: https://www.pearlace.co.jp/know-and-fun/tips/post-190.html
確認日: 2026年6月23日