
未利用原料からたんぱく質を生成する「アップサイクル」は、食品残渣や加工副産物を高付加価値なプロテイン原料へと転換する取り組みである。原料メーカーにとって、これは単なる廃棄コストの削減や環境対応にとどまらず、新たな収益源の確保と世界的なタンパク質供給課題に対応する選択肢の一つとして、重要な事業戦略になりうる。
アップサイクルによるプロテイン製造の定義と背景

未利用原料からのたんぱく質製造とは、これまで廃棄・低利用されていた副産物から、微生物発酵や分離・抽出技術を用いて良質なタンパク質素材を生み出すプロセスである[1]。
食料需要の増大や食料安全保障上のリスクを背景に、新たなたんぱく質源の活用への関心が高まっている。農林水産省の資料においても、多様な食の需要や環境保護などの社会課題に対応する新しい技術として、未利用資源の活用やアップサイクル食品の開発が挙げられている [1]。原料メーカーにとっては、調達コストの安定化や、サステナビリティに配慮した次世代の副産物活用モデルとしての付加価値の創出が期待できる。
原料メーカーが注目すべき副産物活用の具体例

実用化が進んでいる代表例として、農産物の加工工程で発生する副産物の活用がある。
例えば、ばれいしょ(ジャガイモ)でん粉の製造過程で生じる「ポテトジュース」には水溶性タンパク質が含まれている。これを熱と酸で変性させて分離・乾燥し、「ポテトプロテイン」として調味料などの原料にアップサイクルする取り組みが行われている [2]。
また、豆腐製造で生じる「おから」にこんにゃくを掛け合わせてプラントベースフードを開発する事例や、未利用バイオマスを酵素で分解し、微生物(麹や酵母、乳酸菌など)を活用して新たな食品素材を開発する事例も報告されている [1]。
さらに先端研究では、精密発酵(微生物を用いて特定の成分を生産する技術)を用いた代替食品原料生産も注目されている。例えば、微生物である麹菌を活用して、代替プロテインや代替肉を開発する技術の社会実装が期待されている [3]。
事業化における課題と品質管理の重要性

副産物をプロテイン原料として事業化する上で、原料メーカーが直面するのは「供給の安定化」と「食品安全上のリスク管理」である。
未利用原料は、元の生産状況や季節によって発生量や成分が変動する可能性がある。そのため、均一な品質や風味を維持するためのマスキング技術や、高度な精製技術が求められることが多い。
また、残渣を食品原料に活用するためには、異物混入や微生物汚染を防ぐ衛生管理の徹底が求められる。加工前の保管状態の管理、確実なトレーサビリティの確保に加え、粉じんによるアレルゲン交差接触のリスク評価など、粉体原料としての厳格な品質保証体制を構築する必要がある [4][5]。
新たな食料資源としてのアップサイクル
未利用原料を用いたタンパク質製造は、廃棄コストを削減しつつ、新たな食品素材の開発にもつながりうるビジネスモデルである。原料メーカーは、自社の加工ラインで生じる残渣や地域で発生する未利用バイオマスを見直し、最新の抽出・発酵技術と組み合わせることで、次世代の持続可能なプロテインサプライチェーンを構築することが求められている。

参考文献
[1] 農林水産省「フードテックをめぐる状況」
URL: https://www.maff.go.jp/j/shokusan/sosyutu/asset/meguji.pdf
確認日: 2026年6月26日
[2] 独立行政法人農畜産業振興機構「北海道産ばれいしょでん粉加工副産物「ポテトプロテイン」の食品利用と今後の可能性」
URL:https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_003531.html
確認日: 2026年6月26日
[3] 萩原大祐「麹菌による代替肉・代替プロテイン開発」J-STAGE URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/seibutsukogaku/102/8/102_102.8_402/_pdf/-char/ja
確認日: 2026年6月26日
[4] Codex Alimentarius "Code of Practice on Food Allergen Management for Food Business Operators, CXC 80-2020"
確認日: 2026年6月26日
[5] Japan Food Safety Management Association "JFS-C Standard Document Version 3.2"
確認日: 2026年6月26日