
日々のトレーニング効果を高め、コンディションを維持するために、プロテインを利用するアスリートは多く存在します。しかし、プロテインをはじめとするサプリメントの利用には、「意図しないアンチ・ドーピング規則違反(ドーピング陽性)」という重大なリスクが潜んでいます。
本記事では、プロテイン選びにおいてアスリートが直面する禁止物質混入のリスクと、その原因となる製造環境の課題、そして安全性を高めるための認証プログラムの正しい見方について解説します。
サプリメントにおけるドーピングのリスクとは

アスリートがプロテインを使用する際の最大の懸念事項は、意図せず禁止物質を摂取してしまうリスクです。
この理由として、プロテインなどのサプリメントが日本の法律上「医薬品」ではなく「食品」に分類されていることが挙げられます。医薬品には厳格な成分表示が義務付けられていますが、食品の場合、商品の成分表にすべての微量な原材料を記載する義務はありません[1]。そのため、パッケージの成分表示に禁止物質の名前が書かれていないからといって、禁止物質が含まれていないと断言することはできません。
実際に過去の事例でも、成分表に記載のない禁止物質がサプリメントに混入しており、アスリートがドーピング検査で陽性となってしまったケースが発生しています[2]。日本アンチ・ドーピング機構(JADA)や世界アンチ・ドーピング機構(WADA)などの公的機関が、特定のサプリメントを「安全である」と公式に承認・認証することはありません。アスリートは、ラベルの情報だけを鵜呑みにせず、製品の背景を慎重に確認する必要があります。
見落としがちな「クロスコンタミネーション」

成分表示となるレシピ自体に禁止物質が含まれていない場合でも、製造工程で禁止物質が混入してしまうリスクがあります。
これは「クロスコンタミネーション(交差汚染)」と呼ばれる現象です。多くのプロテインメーカーは、自社工場を持たず、外部の製造工場に生産を委託しています。その際、同じ製造ラインで様々な種類のサプリメントが製造されることが一般的です。
たとえば、同じ工場内で、一般のボディビルダー向けに興奮剤やホルモン作用を持つ成分を含む製品(プレワークアウトサプリメントなど)が作られていたとします。その製造の後に機械の洗浄が不十分なままプロテインを製造すると、微量の禁止物質がプロテインに混入してしまう可能性があります。
アスリートがプロテインを選ぶ際は、単に原料の成分だけでなく、「どのような環境で製造されているか」という製造管理体制の観点を持つことが非常に重要です。
「インフォームドスポーツ」と「インフォームドチョイス」の違い

製造工程のリスクを減らす有効な手段として、第三者機関によるアンチ・ドーピング認証プログラムの活用があります。代表的なものに、英国のLGC社という国際的な分析機関が運営する「インフォームドスポーツ」と「インフォームドチョイス」がありますが、ドーピング検査対象のアスリートが選ぶべきなのは「インフォームドスポーツ」です。
なぜなら、この2つの認証は分析の基準や検査項目こそ同じですが、「テストの頻度」が全く異なるためです[3]。
-
インフォームドチョイス:市場に出回っている製品を月に1回、無作為(ランダム)に抜き取って分析を行います。そのため、自分が手にした特定のロット(製造単位)が確実に検査を通過しているとは限りません。
-
インフォームドスポーツ:製品が市場に出荷される前に、すべての製造ロットを分析する「全ロット分析」を採用しています。分析結果が確認されるまで販売が許可されません。
インフォームドスポーツの認証マークが付与された製品であれば、「自分が今から飲むロット」が検査済みであることを確認しやすくなります。アスリートがリスクを最小限に抑えるためには、全ロット分析を行っているインフォームドスポーツ認証製品を選ぶことが推奨されます。
アスリートに求められる「厳格な責任」

最終的にアスリートが胸に刻むべきなのは、自分の身体に取り入れるものに対する責任は自分自身にあるという原則です。
世界アンチ・ドーピング規程においては、「厳格な責任(Strict Liability)」という原則が定められています。これは、故意であるかどうか、あるいは誰かに勧められたかどうかに関わらず、アスリートの体内から禁止物質が検出された時点でアンチ・ドーピング規則違反が成立するという厳しいルールです。
「ラベルに書いていなかった」「知らずに飲んでしまった」という理由は、責任を免れる正当な言い訳としては認められません。そのため、アスリートやそのサポートチームは、サプリメントの使用について常に高い意識を持ち、認証プログラムの徹底した確認や、専門家(公認スポーツ栄養士やスポーツ薬剤師など)への相談を行う必要があります。
まとめ
プロテインは競技力向上の助けとなる一方で、製品選びを誤ればアスリートとしてのキャリアを脅かす事態を招きかねません。
-
サプリメントは食品であり、成分表示がすべてを保証するわけではないこと
-
製造過程でのクロスコンタミネーション(交差汚染)のリスクがあること
-
禁止物質混入リスクを低減する一手段として、全ロット分析を行う「インフォームドスポーツ」認証を確認すること
-
体内に入るものにはアスリート自身の「厳格な責任」が生じること
これらを深く理解し、安全性に疑いがある場合は「摂取しない」という選択をすることも、アスリートの重要な自己管理の一つです。

参考文献
[1] 日本アンチ・ドーピング機構(JADA) アンチ・ドーピングとサプリメント
https://www.playtruejapan.org/code/rule/supplement.html
[2] 公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構 「アンチ・ドーピング規則違反事例の概要と再発防止」
https://www.playtruejapan.org/upload_files/uploads/2018/04/b036100d503b871e036c2d929dca3cd8.pdf
[3] Informed Sport / Informed Choice公式情報も併記または差し替え