
プロテイン市場を見渡すと、チョコレート、バニラ、ストロベリーといった「甘いフレーバー」が売り場のほとんどを占めています。一方で、日常の食事として取り入れやすい「スープ」や「お味噌汁(だし)」といった甘くないプロテインは、ニーズがあるにもかかわらず商品数が限られています。
なぜ、甘くないプロテインは増えにくいのでしょうか?本記事では、消費者が抱える「甘さ疲れ」の現状と、メーカー側が直面する「温かい食事系プロテイン」ならではの食品科学的な開発ハードルについて解説します。
なぜ「甘いプロテイン」ばかりなのか?(マスキングの容易さ)

市場に甘いプロテインが多い理由の一つは、製造側にとって「風味のマスキング(覆い隠すこと)」がしやすい点にあります。
ホエイ(乳由来)やソイ(大豆由来)などのたんぱく質原料には、特有の乳臭さ、えぐみ、大豆臭さがあります。カカオやバニラの強い香りと、甘味料によるはっきりとした「甘味」は、これらのネガティブな風味を上書きするのに非常に適しています。
一方、スープやだしといった「塩味・旨味(セイボリー)」ベースの味付けは、繊細な風味のバランスで成り立っているため、たんぱく質原料のクセを隠しきれません。それどころか、塩味が原料のえぐみを逆に引き立ててしまうこともあり、「甘くないプロテインは美味しく作りにくい」という前提が存在します。
スープ・だし系商品が直面する「3つの開発障壁」

マスキングの難しさに加え、食事系プロテインの開発には以下の3つの大きなハードルがあります。
温かい料理ゆえの「熱変性」
スープやだしは、基本的にお湯で溶かすなど「温かい状態」で食べられます。たんぱく質は一定の温度を超えると立体構造が変化し、「熱変性」を起こして固まります[1]。
熱湯を注ぐタイプのプロテインスープを作ろうとすると、たんぱく質が凝集して「ゴムのようなダマ」になり、著しく口当たりが悪くなるため、加温時の凝集を抑える原料選定や配合設計が求められます。
「塩分過多」のジレンマ
甘味料を使わずに味の輪郭を作るためには「塩分」が必要になりますが、ここで健康志向との矛盾が生じます。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、成人の1日あたりの食塩相当量の目標量は男性7.5g未満、女性6.5g未満と厳しく設定されています[2]。健康のためにプロテインを摂りたい消費者は塩分にも敏感であるため、「美味しくするために塩分を増やす」という手段が使えず、味の調整が極めて困難になります。
旨味(アミノ酸)の衝突
昆布や鰹節などの「だし」の旨味成分は、グルタミン酸などのアミノ酸です。たんぱく質原料由来の風味が、だし本来の香りや旨味とのバランスを崩し、苦味や雑味として感じられる場合があります。[3]
「甘さ疲れ」を救う、食事系プロテインの大きな可能性

開発難易度が高い一方で、消費者からの「甘くないプロテイン」への潜在的な需要は高まっています。
毎日プロテインを飲んでいる層からは、「朝食時や寝る前に甘いものを飲みたくない」「間食ではなく、食事の一部としてプロテインを摂りたい」という「甘さ疲れ」の声が多く挙がっています。
食事系プロテイン(コーンスープ、ポタージュ、お味噌汁など)は、この課題に対する選択肢の一つです。いつもの食事の汁物をプロテインスープに置き換えるだけで、無理なくたんぱく質をプラスできます。特に、甘いお菓子や飲料の摂取を控えているダイエット層や、食が細くなり一度に多くの肉や魚を食べられないシニア層にとって、食事系プロテインは「究極の日常食」となる可能性を秘めています。
まとめ
甘くないプロテイン(スープ・だし系商品)が増えにくい背景には、「たんぱく質特有の風味のマスキングの難しさ」「熱湯による凝集(ダマ)」「塩分コントロール」という、食品開発における高い壁が存在します。
しかし、消費者の「甘さ疲れ」と「日常の食事としてたんぱく質を摂りたい」という強いニーズを背景に、現在多くのメーカーが耐熱性の高いプロテイン原料の開発や、減塩でも美味しく感じる旨味の配合技術に挑戦しています。「甘いサプリメント」から「温かい食事」への進化は、プロテイン市場がさらに拡大するための次なる大きなフロンティアと言えるでしょう。

参考文献
[1]東毛酪農業協同組合 「たんぱく質の熱変性」
https://www.milk.or.jp/belief/heatdenaturation.html
[2]厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316585.pdf
[3]消費者庁 第3回食品添加物表示制度に関する検討会 資料1「食品添加物表示制度に関する要望書」(日本うま味調味料協会)