
食品回収が必要になった時、現場で最初に問われるのは「どの商品が対象なのか」「どこへ出荷したのか」「原因はどこまでさかのぼれるのか」などである。ここが曖昧だと、関係のない製品や取引先まで巻き込む可能性がある。
[1]農林水産省は、食品トレーサビリティについて、「食品の移動を把握できること」であると定義している。各事業者が食品を取り扱った際の記録を作成し保存しておくことで、食中毒など健康に影響を与える事故等が発生した際に、問題のある食品がどこから来たのかを調べ、どこに行ったかを調べることが出来る。
本記事では、食品回収時にトレーサビリティが重要になる理由と、見直したい記録を「原料・製造・出荷」の流れで整理する。
トレーサビリティとは、食品の移動を追える仕組み

トレーサビリティとは、食品が「どこから入ったか」「どの製品に使われたか」「どこへ出荷されたか」を記録で追えるようにする仕組みである。
食品回収時には、[2]2つの方向で記録を確認する必要がある。ひとつは、問題のある製品や原料がどこから来たのかをさかのぼる「遡及」。もうひとつは、その製品がどこへ出荷されたのかを追う「追跡」である。
これは単なる産地表示や商品説明とは異なる。回収や原因究明の場面で使うためには、入荷記録、製造記録、出荷記録がつながっていることが重要になる。
食品回収時にトレーサビリティが重要な理由

食品回収時にトレーサビリティが重要なのは、回収範囲を判断するためである。
たとえば、ある原料に問題が見つかった場合、その原料をどの製造ロットに使用したのか、さらにその製品をどの取引先に出荷したのかが分からなければ、対象を絞り込めない。結果として、問題のない製品まで回収対象に含める判断になることもある。
[3]トレーサビリティの記録が整っていれば、問題のある商品の範囲を確認しやすくなる。対象ロットや出荷先を絞り込めれば、消費者への影響拡大を抑えやすくなり、事業者側の回収負担も過度に広がりにくい。また、原料の入荷日や入荷先を確認することで、原因究明を進めやすくなる。
なお、食品衛生法違反または違反のおそれがある食品等の自主回収については、[4]2021年6月1日から届出が義務化されている。 回収が必要になった場合には、社内対応だけでなく、行政への届出や取引先への連絡も含めて、迅速に判断できる体制が求められる。
回収対応で見直したい記録は「原料・製造・出荷」

回収対応で重要なのは、原料・製造・出荷の記録が分断されていないことだ。記録が残っていても、互いに対応づけられていなければ、回収時に時間がかかる。
基本となるのは、入荷記録と出荷記録を作成・保存することである。入荷記録では「いつ、どこから、何を、どれだけ」、出荷記録では「いつ、どこへ、何を、どれだけ」を確認できるようにしておく。さらに、入荷品と出荷品、原料ロットと製造ロットを対応づけておくと、回収時の確認がしやすくなる。
記録の保存方法とロット番号の対応づけを見直す

[5]トレーサビリティでは、記録を残すだけでなく、原料・製造・出荷の記録がつながっていることが重要である。入荷記録、製造記録、出荷記録がそれぞれ残っていても、ロット番号で対応づけられていなければ、回収時に対象範囲を絞り込みにくい。
まず確認したいのは、原料の入荷ロットが、どの製品ロットに使われたかを追えるかどうかである。次に、その製品ロットが、いつ、どの取引先へ、どれだけ出荷されたかを確認できる状態にしておく必要がある。
[6]紙の伝票、Excel、基幹システムなど、現場で管理しやすい形式で記録を残すことが重要である。重要なのは、問題が起きたときに、原料ロットから製品ロット、出荷先までたどれることだ。出荷伝票や納品書の控えにロット番号を記載するなど、現場で続けやすい方法から見直すとよい。
まとめ

トレーサビリティは、食品回収時に対象ロットと出荷先を特定するために重要な仕組みである。原料・製造・出荷の記録がつながっていなければ、回収範囲を絞り込みにくく、原因究明にも時間がかかる。
まずは、入荷記録、製造記録、出荷記録がそれぞれ残っているかを確認する。そのうえで、原料ロットと製造ロット、製造ロットと出荷先が対応づけられているかを見直すことが重要だ。
記録は、保存するだけでは十分ではない。食品回収時にすぐ使えるよう、検索・照合しやすい状態に整えておくことが、実務上のトレーサビリティ強化につながる。
参考文献
[1]農林水産省 トレーサビリティ関係 (2026/3/9)
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trace/index.html
[2][1]と同上
[3]農林水産省 食品トレーサビリティに取り組みましょう
https://www.maff.go.jp/j//syouan/seisaku/trace/attach/pdf/index-155.pdf
[4]厚生労働省 自主回収報告制度(リコール)に関する情報
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/kigu/index_00011.html
[5][3]と同上
[6]農林水産省 食品トレーサビリティ 実践的なマニュアル 総論
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trace/pdf/manual_souron2.pdf