
昆虫食は、代替たんぱくや[1]フードテックの文脈で注目されている商品の一つです。例えば、[2]コオロギなどを粉末にして、せんべい、クッキー、パン、プロテイン系食品などに使う商品もみられるようになりました。
一方で、「体によさそう」「環境によさそう」と聞いても、すぐに食べたいと思える人ばかりではありません。見た目への抵抗感、味のイメージ、アレルギーへの不安など、日常の食品として広がるにはいくつかの壁があります。
この記事では、昆虫食の可能性と、普及に向けた課題をわかりやすく整理します。
昆虫食が注目される背景

昆虫食が注目される背景には、不足が懸念されている将来の食料供給やたんぱく質源の多様化があります。[3]フードテックの分野では、植物由来食品、細胞性食品、微生物を活用した食品などと並び、昆虫を活用した食品も新たなたんぱく質源の一つとして扱われています。
ただし、昆虫食は「肉の完全な代わりになる食品」と考えるより、たんぱく質を得る選択肢の一つとして見るほうが現実的です。肉、魚、大豆製品、乳製品などに加えて、昆虫由来の食品も選択肢に入る可能性がある、という位置づけです。
また、昆虫の利用は人が食べる食品だけではありません。飼料や肥料など、食品以外の分野でも活用が検討されています。食品残さなどの未利用資源をどう活用するかという話とも関係します 。
昆虫食の可能性はどこにあるか

昆虫食の可能性は、主に次の3つです。
・たんぱく質源を増やせる
・加工原料として使いやすい
・飼料や肥料など食品以外にも展開できる
たんぱく質源を増やせる
たんぱく質は、筋肉だけでなく、体を作るさまざまな成分に関わる栄養素です。食生活の選択肢が増えることは、将来の食料供給を考えるうえで意味があります。
昆虫は種類によって栄養成分が異なるため、「昆虫食=すべて高たんぱく」と一括りにはできません。ただ、[5]FAOは食用昆虫を、たんぱく質や微量栄養素を含む食品資源として整理しています。
日常的な食事では、肉、魚、卵、乳製品、大豆製品を中心にたんぱく質を摂る人が多いでしょう。その中に、昆虫由来の原料を使ったスナックや焼き菓子、プロテイン食品が加わる可能性があります。
加工原料として使いやすい
昆虫そのものの形が見えると、抵抗を感じる人は少なくありません。脚や羽の見た目が残っていると、「栄養がある」と聞いても食べる前に気持ちが止まってしまう人もいます。
その点、粉末にして食品に混ぜる形であれば、見た目の抵抗感を下げやすくなります。たとえば、クッキー、せんべい、スナック、パン、麺、プロテインバーなどです。
実際に、消費者受容に関するレビューでは、昆虫そのものよりも、昆虫由来の原料を含む食品のほうが受け入れられやすい傾向が示されています。[6]過去研究の整理として、丸ごとの昆虫食品を受け入れやすいとした研究は8%だった一方、昆虫由来原料を含む食品では35%でした。
この差は、昆虫食の広げ方を考えるうえで重要です。普及の入口は、「虫をそのまま食べる体験」よりも、「普段の食品に近い形で試せる商品」になる可能性があります。
食品以外にも活用できる
昆虫の活用は、人が食べる食品だけに限られません。飼料、肥料、ペットフードなどの分野でも利用が検討されています。
特に、食品残さや未利用資源をどう活かすかという文脈では、昆虫を活用した飼料・肥料づくりが注目されます。人が直接食べる食品としての昆虫食に抵抗がある場合でも、飼料や肥料としての活用であれば、受け入れられやすい可能性があります。
昆虫食を考えるときは、「人が虫を食べるかどうか」だけに話を狭めないことが大切です。食品、飼料、肥料、食品残さの再利用まで含めて見ると、昆虫利用の可能性は広がります。
最大の課題は、消費者が受け入れられるか

昆虫食の最大の課題は、消費者が日常の食品として受け入れられるかです。昆虫食に対しては、栄養や環境のメリットを理解していても、「食べたい」とは感じにくい人がいます。
昆虫食は、環境負荷の低さと結びつけて語られることがあります。たしかに、[7]FAOは昆虫が飼料効率や温室効果ガス排出の面で特徴を持つ可能性を示しています。
ただし、食品として選ばれるには、環境面だけでは十分ではありません。多くの人にとって、食品を買うときの判断軸は、味、価格、安心感、入手しやすさ、家族が食べるかどうかです。
「環境によいから食べるべき」と強く訴えるよりも、「おいしい」「食べやすい」「普段の食品に近い」「原材料や安全性がわかりやすい」と感じられることが、普及には欠かせません。
見た目と名前のハードルも大きい
昆虫食では、見た目と名前の印象も大きな壁になります。
同じ原料を使っていても、「コオロギ粉末入り」と前面に出すと抵抗を感じる人がいます。一方で、原材料を隠すような売り方をすれば、信頼を損ないます。
そのため、事業者に求められるのは、無理に目立たせることでも、わかりにくくすることでもありません。何が入っているのかを明確に伝えたうえで、なぜ使っているのか、どのような品質管理をしているのかを説明することです。
昆虫食は、珍しさだけで一時的に話題になることはあります。しかし、日常の食品として残るには、奇抜さよりも「安心して選べる普通の食品」に近づける工夫が必要です。
安全性・表示・アレルギーへの配慮も欠かせない

昆虫食を広げるうえで、安全性・表示・アレルギーへの配慮が欠かせません。
食用昆虫に関する食品安全上のハザードとして、生物学的ハザード、化学物質によるハザード、物理的ハザード、アレルゲンリスクが挙げられます。[8]
つまり、昆虫は自然のものだから安全とは言えないということです。他の食品と同じように、原料の管理、飼育環境、餌、加工、保管などまで含めた衛生管理が必要です。
アレルギーへの注意が必要
昆虫食では、アレルギーへの配慮が特に重要です。
日本の食品表示制度では、容器包装された加工食品について、特定原材料を含む場合の表示が義務付けられています。[9]特定原材料は、えび、カシューナッツ、かに、くるみ、小麦、そば、卵、乳、落花生です。
昆虫そのものは、この特定原材料の名称には含まれていません。しかし、昆虫はたんぱく質を含む食品であり、種類や個人の体質によってアレルギー反応が問題になる可能性があります。
日本で商品化する場合も、法令上の義務表示だけでなく、消費者が判断しやすい注意喚起が重要になります。特に、えび・かになどの甲殻類アレルギーがある人は、購入前に原材料表示や注意表示を確認し、不安がある場合は避ける判断も必要です。
まとめ
昆虫食には、代替たんぱく、食料供給、未利用資源の活用といった面で可能性があります。粉末や原料として使えば、普段の食品に近い形で取り入れられる余地もあります。
一方で、普及の壁は小さくありません。見た目への抵抗感、味の不安、文化的ななじみの薄さ、アレルギーや安全性への懸念があります。
昆虫食を考えるときに大切なのは、「未来の食品だから食べるべき」と押しつけないことです。消費者が選ぶかどうかは、栄養や環境の説明だけでは決まりません。おいしさ、価格、安心感、表示のわかりやすさがそろって、初めて選択肢になります。
昆虫食は、すべての人に向く食品ではありません。ただ、たんぱく質源を多様化する一つの選択肢として、今後も食品、飼料、フードテックの領域で議論が続くテーマです。

参考文献
[1]食品工場 Week フードテック(food technology)とは?意味や注目される背景(2025/12/23)
https://www.foodtechjapan.jp/hub/ja-jp/blog/article_048.html
[2]シェアシマ コオロギパウダーなぜ使われる?味や栄養素、安全性を解説(2023/4/21)
https://shareshima.com/info/3403
[3]農林水産省 フードテックをめぐる状況 (2026/2月)
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/sosyutu/asset/meguji.pdf
[4]J-STAGE “昆虫食需要に関する心理学的研究の動向と展望” 2021年92巻1号p.52-67、元木 康介,石川 伸一
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/92/1/92_92.20402/_article/-char/ja/
[5]Food and Agriculture Organization of the United Nations 「Insects for food and feed」
https://www.fao.org/edible-insects/en
[6]HM Ngo, M Moritaka -2021- “Consumer attitudes and acceptance of insects as food and feed: a review”
https://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/4486558/6602_p259.pdf
[7][5]と同上
[8]食品安全委員会 食品安全関係情報詳細 2023/06/27
https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu06090560314
[9]消費者庁 食物アレルギー表示に関する情報
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/allergy/