
プロテインを混ぜた蒸しケーキは、「蒸すからしっとりしそう」と思われがちです。ところが、実際には口の中でほろほろ崩れたり、粉っぽく感じたりすることがあります。
その理由は、水分量だけでは説明しきれません。たんぱく質、でんぷん、砂糖、油脂、気泡が、加熱中に水分や構造形成に関わりながら固まるためです。ケーキ生地では、混合時に気泡が取り込まれ、その安定性が体積やクラムの食感に関わるとされています[5]。
高たんぱく蒸しケーキの基本

ここでいう高たんぱく蒸しケーキは、小麦粉や米粉、卵、砂糖、液体を使う生地に、ホエイ、ソイ、カゼインなどのたんぱく質粉末を加えた蒸し菓子です。
ケーキのやわらかさは、混ぜ込んだ気泡が加熱で膨らみ、でんぷんが水を吸って糊化し、卵やプロテイン由来のたんぱく質が変性・凝固して支えることで生まれます。変性とは、熱などでたんぱく質の立体構造が変わる現象です[1]。でんぷんは水中で60℃前後から膨らみ、温度上昇とともに水を取り込むと説明されています[2]。
また、ケーキ生地は加熱中に、でんぷん糊化とたんぱく質変性によって液状の生地から固体のケーキへ変わるとされています[5]。蒸しケーキも焼成ケーキと完全に同じ条件ではありませんが、加熱によって生地の骨格が作られるという点では、近い考え方で理解できます。
なぜ使われるか・なぜ重要か

プロテイン粉末は、少量でもたんぱく質量を上げやすく、間食や朝食向けの商品設計にも使いやすい素材です。たんぱく質量を訴求しやすいため、家庭用レシピだけでなく、菓子、パン、蒸し菓子などの商品開発でも関心を持たれやすい素材です。
ただし、小麦粉の一部をそのままプロテインに置き換えると、生地の粘り、泡の保ち方、加熱後の骨格が変わります。
実際に、焼成スポンジケーキの研究では、小麦粉100gの対照に対し、小麦粉80g・ホエイプロテイン20gにした試験で、比容積は3.16から2.68mL/gへ下がり、硬さは23.71から62.86へ上がっています[3]。これは蒸しケーキそのものの試験ではありませんが、たんぱく質を足すほど必ずふんわり仕上がるわけではないことを示す参考例になります。
ホエイプロテインアイソレート(WPI)で液卵を完全置換したパウンドケーキでも、対照と比べて体積、食感、保存中の硬さの点で不利だったと報告されています[4]。
高たんぱく蒸しケーキで注意したいこと

パサつき対策は、水を増やせば終わりではありません。ホエイは溶解性が高く、生地中の水分利用性に影響するため、砂糖やでんぷんが使える水の量や、生地の固まり方に影響する可能性があります。 スポンジケーキの研究でも、ホエイの高い溶解性が砂糖を溶かすための利用可能な水を減らし、食感に影響しうると説明されています[3]。
また、加熱条件によっては、たんぱく質の凝固や生地の構造形成が進み、しっとり感よりも硬さや密度が目立つ場合があります。ケーキ生地では、でんぷん糊化とたんぱく質変性のタイミングが食感や品質に影響するとされており[5]、高たんぱく配合ではこのバランスが崩れやすい可能性があります。
保存後の食感にも注意が必要です。パウンドケーキの研究では、保存中のクラムの硬さには水分移動が大きく関わり、でんぷんの再配列も一部関与すると報告されています[6]。蒸しケーキでも、時間がたつと水分が移動し、口どけが落ちる場合があります。
家庭では、プロテインを小麦粉と同じ性質の粉として1対1で置き換えるより、一部置換として考える方が失敗しにくいでしょう。実用的な目安として、DaVitaの記事では、焼き菓子にホエイプロテインを使う場合、小麦粉の約3分の1を置き換える方法が紹介されています[7]。ただし、これは家庭向けの実用情報であり、すべての蒸しケーキにそのまま当てはまるわけではありません。
事業者が商品化する場合は、たんぱく質量だけでなく、水分量、水分活性、硬さ、比容積、保存後の食感まで確認することが望まれます。 特に高たんぱく食品では、栄養設計と食感設計を分けて考えることが大切です。
高たんぱく化は食感設計まで含めて考える
高たんぱく蒸しケーキがパサつきやすい理由は、蒸し加熱そのものより、配合中のたんぱく質が水分、気泡、でんぷんの働きに影響する点にあります。
たんぱく質量を上げることは、栄養設計上の分かりやすい価値になります。 一方で、入れ方によっては、ふくらみ、やわらかさ、口どけ、保存後の食感が変わります。
生活者にとっては、「プロテインを入れれば同じように仕上がるわけではない」と理解する手がかりになります。開発側にとっては、たんぱく質量だけでなく、加熱中の構造形成や保存後の食感まで含めて評価すべきテーマです。

参考文献
[1] Encyclopaedia Britannica. Denaturation | Definition, Examples, & Facts.
URL:https://www.britannica.com/science/denaturation
確認日:2026年6月8日
[2] Institute of Food Science & Technology. Carbohydrates: gelatinisation.
URL:https://www.ifst.org/lovefoodlovescience/resources/carbohydrates-gelatinisation
確認日:2026年6月8日
[3] Maravić N, et al. Effect of Sourdough and Whey Protein Addition on the Technological and Nutritive Characteristics of Sponge Cake. Foods. 2022.
URL:https://www.mdpi.com/2304-8158/11/14/1992
確認日:2026年6月8日
[4] Paraskevopoulou A, et al. Quality characteristics of egg-reduced pound cakes following WPI and emulsifier incorporation. Food Research International. 2015.
確認日:2026年6月8日
[5] Godefroidt T, Riley IM, Ooms N, Bosmans GM, Brijs K, Delcour JA. Sucrose substitution in cake systems is not a piece of cake. npj Science of Food. 2023;7:52.
URL:https://www.nature.com/articles/s41538-023-00225-y
確認日:2026年6月8日
[6] Luyts A, Wilderjans E, Van Haesendonck I, Brijs K, Courtin CM, Delcour JA. Relative importance of moisture migration and amylopectin retrogradation for pound cake crumb firming. Food Chemistry. 2013;141(4):3960–3966.
URL:https://agris.fao.org/search/en/providers/122535/records/65dfd4047c7033e84bef18d6
確認日:2026年6月8日
[7] DaVita. How to Bake with Whey Protein Powder.
URL:https://davita.com/diet-nutrition/kidney-diet-tips/bake-whey-protein-powder/
確認日:2026年6月8日