
プロテイン食品の開発において、AI(人工知能)技術は経験則に依存してきたプロセスを見直すきっかけになりつつある。配合設計の最適化、味予測の高精度化、官能評価のデジタル化、および新たな代替タンパク質の原料探索において、AIは開発期間の短縮や品質向上を支援する可能性がある。
配合設計と原料探索の高速化

代替タンパク質やプロテイン製品の開発において、膨大な植物種や化合物から最適な組み合わせを見つけ出す「原料探索」は、最も時間を要する工程である。しかし、AIエンジンを活用することで、何十万種もの植物データや化合物をマッピングし、開発期間を大幅に短縮することが可能になっている[1]。
実際に、チリのスタートアップ企業であるThe Live Green Coは、AIを用いて次世代の植物ベース食品の原料を探索し、長期間を要する代替タンパク質の開発期間を90日間まで短縮することに成功した[1]。また、見出された原料を用いた「配合設計」においても、大学などの研究機関で食品の原料や配合、加工条件とおいしさの相関に関するデータベース構築が進められており、任意の配合条件から味を予測するAIシステムの開発が進行している[2]。
味予測と官能評価のデジタル化

プロテイン特有のえぐみや、大豆などの植物性タンパク質の青臭さを消すマスキング技術において、「味予測」と「官能評価」のデジタル化は極めて重要である。従来、味の評価は人間の感覚に頼る属人的な官能評価が主流であったが、AI技術を用いた味覚センサーの登場により、客観的かつ定量的なデータとして味を評価できるようになった[3]。
慶應義塾大学発のベンチャー企業が開発した味覚センサーは、脳の神経回路を模したニューラルネットワークを通して、甘味や旨味、苦味などの基本5味を定量的な数値データとして出力する[4]。これにより、成分同士の味の相互作用も加味した解析が可能である[4]。さらに、長瀬産業と米IBMの共同研究のように、AI技術を応用し現場でリアルタイムに化学品の分析や味覚の測定を行うポータブルな味覚センサーの開発など、実用化に向けた動きも加速している[5]。
現場への導入課題とデータの限界

AIを活用する際の注意点として、AIの出力精度が学習データの質と量に依存することが挙げられる[6]。AIは過去の成分データや官能評価のスコアを学習して予測モデルを構築するため、入力データに偏りがある場合、精度の高い味予測や配合設計を出すことは難しい[6]。
また、AIが提示した配合案や原料探索の結果が、実際の製造ラインで量産可能か、コストが見合うものであるかは、最終的に人間が実地検証を行って評価する必要がある。味覚センサーによる分析結果も、人間の複雑な食感、香り、喉越しなど、おいしさを構成する要素のすべてを完全に再現できるわけではない。AIを過信せず、従来の官能評価と適切に併用する仕組みの構築が求められる。
データ駆動型開発へのシフト
プロテイン食品の開発において、AIは原料探索や配合設計にかかる時間を削減し、味予測や官能評価に客観的な指標をもたらす技術として注目されている。企業はAIを単なる効率化の手段として捉えるのではなく、未知のタンパク質資源の発掘や新たな風味を創出するための基盤として活用すべきである。データ駆動型の開発体制を構築することは、今後の市場で競争力を高める一要素になる。

参考文献
[1] Foovo「AIを活用するチリ企業The Live Green Coが植物性アイスクリームを発売」
URL:https://foodtech-japan.com/2021/02/18/the-live-green-co/
確認日:2026年7月1日
[2] 九州大学「「社外秘の流出を防ぎながら、高度な知を集結・共用する“食のAIシステム”」に関する共同研究を開始」
URL: https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/notices/view/2774/
確認日:2026年7月1日
[3] 懐刀「味のデジタル化とは~新たな「おいしさ」の世界~」
URL: https://futokoro.san-yu.co.jp/media/2025/02/28/120
確認日:2026年7月1日
[4] 知財図鑑「味覚センサーレオ:ニューラルネットワークを用いて味覚を再現」
URL: https://chizaizukan.com/property/147/
確認日:2026年7月1日
[5] インプレス「長瀬産業、化学品分析のための味覚センサー技術を米IBMと共同研究」
URL: https://dcross.impress.co.jp/docs/usecase/002439.html
確認日:2026年7月1日
[6] 総務省「AIへのデータ利用の状況」
URL: https://www.soumu.go.jp/main_content/000608307.pdf
確認日: 2026年7月1日